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□拍手ログ
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拍手ログE

肌に纏わりつくような、不快な暑さ。テニスをしているときはそんな暑さなど吹き飛ばせるが、ただ部屋でじっとしている今の状態では暑さばかりが気になってしまう。
越前は部屋の主を睨んで、ブツブツとこぼした。


「なんでクーラーつけないんスか…」


ぐて、とだらしなくフローリングに寝転ぶ。
本来なら少しは冷たいはずのそれは、越前の体温を移してぬるくなっている。


「人の家に来て、図々しいこと言ってんじゃねえ。まだ耐えられる暑さだろうが。それにつけてるだろ、除湿器。」
「そんなのでこの暑さをしのげるわけないっス…」
「気合いでどうにかしろ」


海堂はクーラーのような人工的な冷気はあまり好きではなかった。さすがに真夏日になれば利用もするが、なるべくなら使いたくない。そんな気持ちなど知るはずもない越前は、「暑い暑い死ぬ暑い」とごろごろフローリングを転げていた。
それをジロリと睨んで「うるせえ黙れ」と苛立った様子で海堂は返した。


「こんなに新しそうなクーラーあるのに活用しないなんて、開発者にシツレーなんじゃないっスか」
「わけわかんねえこと言ってんじゃねえ!とにかく黙れ。放り出すぞ」


不貞腐れた様子で黙る越前だったが、何を思い立ったのかおもむろに立ち上がり海堂の背中にべったり張り付いてきた。


「何してんだ、暑苦しい、離れろ!」
「クーラーつけてくれたら離れるっスよ」


ぎゅうぎゅうと身体を押しつけてくる越前との接している面がジワジワと汗をかいてくる。それは越前も同じで、2倍、否それ以上の不愉快さだった。


「早くクーラーつけたらどうっスか」
「これお前も暑いだけだろ」
「だからはやく」


横目で越前をみれば、額から伝った汗が頬まで垂れてきていた。さすがに少しかわいそうか、と、思い直す。


「あ、もしかして、クーラーつけたらオレが離れちゃうからつけないとか?」
「は、はあ!?」


海堂は先程少しでもかわいそうだと思ったことを撤回した。どこまで都合の良い頭をしているのか、越前の脳内を疑った。


「図星っスか?」
「んなわけねえだろ!つける、今すぐつける。さっさと離れろすぐ離れろ」
「どーも」


越前の思惑通りになってしまった気がするが、変に誤解をされたままのほうが嫌だった。
リモコンを手に取り、運転ボタンを押す。最新式だからか、すぐにひやりとした冷気が室内に広がった。
しかし、当の越前はいまだに引っ付いたままだ。


「おい、つけただろ、離れろ」
「涼しくなったら、今度は人肌が恋しくて」
「嘘吐け!お前まだ汗かいてるじゃねえか!」
「嬉しいくせに、素直じゃないっスね」


汗で髪が張り付いた額に、越前が唇を寄せた。もはや抵抗する気力もなく、反論はため息に変わってこぼれた。


これを幸せと呼ぶには暑すぎる


END
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