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□拍手ログ
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拍手ログI


ああ、まただ、と。

廊下を歩く越前は立ち止り、軽く溜息を吐いて、海堂の腕を引いた。
戸惑う彼を見上げて柔らかく微笑めば、辺りを見渡して恐る恐る屈んでくれる。

それは時に、
ひと気のない廊下で、
放課後の教室で、
昼休みの図書室で。

海堂の甘く柔い唇を食みながら、ちらりと目をやれば、可哀想なくらい青ざめて狼狽えている女生徒が必死に状況を飲み込もうとしている。


海堂薫は無自覚に人を引きつけて魅了する。
例えば、いま大げさに音を立てて逃げ出した女生徒だったり。

「…っ、いま、誰か」
「気のせいでしょ。ねえ、オレだけに集中してよ」

焦って逃げようとする海堂の腰を引き寄せて首筋に噛み付いた。
ひゅ、と息を飲む音が支配欲をじわりじわりと満たして心地いい。

何も今日に限ったことではないし、数もひとりふたりではない。


「むかつく…」


自分以外の人間が彼の魅力に気づいたことがだろうか、それとも誰彼構わず色気を振りまいている無防備な彼に対してだろうか。
海堂の首筋にうっすら浮かぶ口づけた跡や消えきっていない歯型を見るたびに、子供じみた独占欲と罪悪感に苛まれる。
しかしどうせなら海堂に思いを寄せる女生徒全員に見せつけてやりたい。
歯型をなぞるように舐めあげればびくりと跳ねる身体に気を良くして、唇を下へ下へとずらしていく。


「おい、ここ、廊下…っ」
「人に見られたくないっスか?」
「あ、当たり前だろ!」

さっき見られてたけど。

それを言わないのは海堂を辱めるより警戒されたくないからだ。
校内でこんなことをして誰にも見られないはずがない。だからこそ意味がある。

「そっスね、そういう顔はオレだけにみせてほしいっス」
「そういう顔ってなんだよ…くそ!」
「真っ赤でかわいーっスね」

更に言うなら『そういう顔を越前だけにみせている事実を突きつけたい』であった。
軽く唇を合わせて、これから先を予測してかキツく目を閉じた海堂に幾許かの満足感を覚え、ぱっと離れた。

「…?」
「なに?これ以上期待してるとか?」

薄目を開けてこちらの様子を伺う海堂をニヤニヤしながら見あげれば、先程よりも顔を赤くして「んなわけねーだろ!」と怒鳴られた。


「先輩が見られたくないって言ったんじゃないスか」
「うるせえ!」
「ほら、廊下で大声出したらそれこそ人が集まるっスよ」

歩きながら海堂を振り返れば、言い返せなくて悔しいのか唇を噛んで涙目で睨んできている。
嗜虐心を煽るその姿に抑えたはずの熱が再び燻って、ゆらゆら揺らめいてしまう。


「…ほんと、ダメっスよ、そういう顔したら」


ああ、ほらまた誰かが見てる。
海堂越しに控えめに揺れるスカートを見つけて、越前はまた唇の端を吊り上げた。

end
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