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□あなたに
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越前がプロになって最初の誕生日。
既にそういうものに浮かれる歳ではないが、愛する人から祝って貰って嬉しくないわけがない。
足取り軽く、妻(というと物凄く怒られるので本人の前では絶対言わない)の待つ家へ帰る。
イルミネーションで飾られた住宅地を抜けて玄関の前まで辿り着く。外にまで煮物の香りがして、たまらなく幸せな気持ちになった。
ただいま、とドアを開ければ、シンプルな青いエプロンを着けた妻…海堂が小走りで玄関まで出迎えてくれる。
「…裸エプロンじゃないんスね」
「気色悪いこと言ってんじゃねえ」
ちっ、と舌打ちを打つ唇に口付ける。
そのまま強く抱き締めた。
「『俺がプレゼント』とかないんスか?」
「てめぇはベタなことしか言えねえのか。…ほら」
わかっていたように、越前の顔の前に細長い箱が出される。
「開けていい?」
青い包装紙を丁寧に破って箱を開ける。中にはブランド物の青いネクタイ。
「…オレあんまりネクタイつけないんだけど。締め方も知らないし」
「社会人にもなってネクタイのひとつも結べないんじゃ駄目だろ」
海堂はそのネクタイを手に取って越前の首にかけ、結び始めた。
器用にスルスルと結ばれていくネクタイを不思議そうに見ていると、急に引っ張られる。
何、と声をあげる前に唇を塞がれた。
一瞬触れたソレはすぐに離され、
「ネクタイ送る意味くらい、知っとけ」
と呟いて海堂は呆然とする越前を残してリビングに戻っていった。


ネクタイを送る=あなたに首ったけ!
END
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