テキスト
□交換日記
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部室で、ノートを落としたのが運のツキだった。
「…おい、落ちたぞ」
「あ、ども」
床に落ちた越前の国語のノートを、海堂がしかめっ面で拾う。
受け取ろうと手を伸ばしたが、あろうことか海堂はパラパラとノートをめくり出した。
「ちょ、」
「…なんだこれは」
眉間に皺が依る相手からノートを取り返そうと躍起になるが、背の高さは歴然で、はたからみればいじめの様にすら見える。
「…お前、漢字…」
「…仕方ないじゃないっスか」
それだけ告げられ、何やら海堂が眉尻を下げて困り顔になっている。
越前のノートには、ほとんど漢字が使われていないのだった。アメリカに居たのだから仕方ないことはわかっているのだが。
「練習しろ」
「嫌っス」
「嫌じゃねえ。このノートやるから、毎日日記でも書いて俺に提出しろ」
真新しいノートを越前に押しつける。
変なところで世話を焼かないで欲しい。当然越前はごねた。
「何でオレだけ…」
「てめぇ以外居ねえだろ」
「フコーヘーっスよ。先輩も書くならやってもいいっスけど」
「………俺が書くなら、書くんだな?」
「……、っス」
「わかった」
「は!?」
何とか逃れようと言ってはみたものの、まさかこんなことになろうとは。
かくして、越前と海堂の交換日記が始まった。