テキスト
□雨と夢とエスパーと
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夢の自分を殴りたい。しかし叶わない願いに、下着を洗う手を強めた。
越前の夢をみた。
そこまでは取り立てておかしいことはない。しかし夢の中の彼はどうにもおかしく、甘く蕩けるような瞳で海堂を見つめあまつさえ擦り寄って、更には唇を重ねてきた。
夢の中の海堂は、軽く越前を押し返しただけであとは心地良さに身を任せてしまっていた。
「違う違う違う、あれは違う」
ぶんぶん頭を振って下着をすすぐ。
夢のはずなのに、妙に生々しい感覚であった。と言っても海堂にそんな経験はないのだが。
それなのに、伝わる体温、柔らかい唇や割って入る舌が実際に触れ合っているように感じて酷く困惑した。
卑怯だ。
なので、最終的に越前の頭を押さえ付けて夢中になってしまったのは、決して海堂のせいではない。
「越前の野郎…」
そして目が覚めたらこの有様である。
今日の部活が非常に気まずい。もちろん越前がそれを知る由もないのだが。
海堂は再び眠ることもせず、ただ無心に自室でトレーニングに励んだ。
目を瞑っても、先程の出来事を反芻してしまう。
テニスが出来ず迷惑なだけだった雨も、今は心を洗い流してくれる神聖なものに思えた。