テキスト
□ついつい、空回り。
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会いたいと思えば思うほど、待っている時間は焦れったく長い。その時間すら愛しいなど、今の越前に感じている余裕はない。
ジリジリと急く気持ちを抑え、ひたすら昇降口を見つめる。
するとようやく念が通じたのか、よくよく見知った姿が現われた。
「海堂先輩!」
久し振りに見たその姿に嬉しさのあまり走り寄る。いつものクールな態度などどこかへ吹き飛んでしまった。
対する海堂は、あまりの予想外の訪問者に唖然としている。唖然よりむしろ怒りに近い表情であったが。
「てめぇ、なんでいやがる」
「ちょ、久し振りに会って第一声がそれっスか」
恋人なのに、と言おうとしたが、こいび、まで言ったところで頭をはたかれた。
海堂も以前に比べて我慢強くなったようで、深い独特のため息を吐いて諦めたように尋ねてくる。
「…で?何かようか」
「会いたかったから、じゃダメっスか」
瞬間、海堂の顔が赤くなり辺りをキョロキョロしている。そういえばまだ校門の前だった。
いまだ赤い顔で海堂は「着いてこい」とだけ呟いて、スタスタと歩いていくので、おとなしくその後に着いていった。
「この辺りなら、いいか」
夕日の迫るその公園には、人もまばらで、大声を出さなければ会話をきかれることもない。
ベンチに座る海堂に倣い、越前は隣りに座った。こんなにも近い距離にいるのに、抱きついたりするには雰囲気が明らかに違う。空気が重い。まるで会いに来たことを責めているような、そんな空気だ。
「先輩、何怒ってるんスか」
「別に…」
「迷惑、だった、とか」
「…そうじゃねえ、けど」
おかしい、こんな微妙な雰囲気になるために越前は会いに来たわけではない。もしかしたら、海堂は越前と別れたいのかも知れない、そんな予感すらさせる。