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□9800ヒットキリリク
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変な夢をみた。
ルームシェアの相手、今はアメリカに滞在中の越前に起こされる夢だ。


「海堂先輩、まだ起きないんスか?」


寝坊の常習犯に起こされる夢なんて、笑ってしまう。
それもこれも、奴がやけにこだわったキングサイズのベッドで寝ているせいかもしれない。あまり日本に居ないのだからベッドはひとつにしようとか何とかと、言いくるめられた末の産物だ。
ひとりで寝るには若干広いように思うそれに、舌打ちをしたこともしばしば。


「ねえ、先輩。ねえ」


それにしてもうるさい夢だ。
頬に手が触れる感触まである。心なしか、越前の匂いまでする。
しばらくぶりで忘れていたが、越前は同じシャンプーやボディソープを使っているのに、どこか良い香りがするのだ。香水を使っているところはみたことがなかった。
それを言ったら、海堂先輩のほうが良い匂い、等とほざいて首筋に顔を寄せてきた。
思い出したらイラついてきた。


「眉間にシワ。何の夢みてるんスか」


やけに近い距離で越前の声がする。お前の夢だちくしょう。
頬にかかるさらりとした髪に、唇に触れる柔らかく暖かい感触。
なんだ、これは。
うっすらと目を開ける。


「あ、起きた?オハヨーゴザイマス」
「……」


やはり変な夢だ。越前がいる。目の前に。


「じゃあこれはただいまのキス」


ちゅ、と触れたかと思えば、ぬるりと舌が入り込んできた。
さすがにおかしい。どう考えてもおかしい。
焦って飛び起きようと試みるが、何時の間にか両肩を押さえられてままならない。仕方なく口内を好き勝手に動いている舌を軽く噛んだ。
痛い、と顔を歪めた越前がようやく離れた。


「てめえ、なんなんだ!ここはアメリカじゃねえって何回も言ってるだろうが!」
「ここは日本スね。ただいま」


また唇を合わせようとする越前を押しのけて、ベッドから下りる。忌々しいことにすっかり目が覚めてしまった。


「だいたい、なんでいやがる。帰ってくるときは連絡しろ」
「先輩を驚かせたくて。あと、寝顔がみたくて」


洗面所にむかう海堂にぴったりとくっついてくる越前に、お茶でも汲んでろ、と言い渡して引き剥がした。


*********


海堂の作った和食を美味しそうに咀嚼する越前に、先程の無体も許してしまいそうになる。


「やっぱり海堂先輩の作る和食が一番スね」
「…俺はてめえの家政婦じゃねえぞ」


そう言われて悪い気はしないが、どう反応していいのかわからず悪態をついてしまう。
それでも越前は楽しそうに目を細めてこちらを見ている。



「うん、オレのお嫁さん、スよね」
「てめえ、ネジ飛んでんじゃねえのか」


相変わらず越前はよくわからないことを言ってくる。
こんな相手だから気負わずに一緒に生活が出来るのかもしれないが、頭痛の種は増える一方だ。

す、と越前が小さな箱を渡してきた。
唐突すぎてその箱と越前を見比べる。
越前の目は早く開けろ、と促していた。得体のしれないその箱の包みを恐る恐る開けると、シンプルな銀の指輪が出てきた。


「…なんだこれ」
「虫除け」


まじまじと指輪を手に取って見る。どう見ても普通の指輪だ。最近の指輪は虫除けにもなるのか、と感心してしまう。
越前の左手をみれば、同じくシンプルな銀の指輪が存在を主張していた。


「お前もつけてるのか」
「うん、小バエがうるさくて」


小バエにも効くなんて、ますますすごい指輪だ。
覗き込むように指輪を観察していると、越前が海堂の左手を取った。
恭しく薬指に唇を付けたかと思えば、何時の間にか手にしていたはずの指輪がするりと左手の薬指にはまっていた。
流れるような動作にぼんやりとしてしまったが、さすがにこの位置は意味合いが違うのでは、と外そうとしたが、越前に止められた。


「そこじゃないと意味ないっスよ。どうしても嫌ならペンダントトップにしてもいいけど、虫除けの効果が薄くなるんで」
「越前…」
「なんスか?」
「虫除けなのに、台所に置いたらダメなのか」
「………。ダメ。絶対ダメ。左手の薬指じゃなきゃダメっス」


越前の顔が呆れたようなガッカリしたような表情になったが、海堂にはよく理解出来ず、とりあえず言われた通りの場所につけることにした。


その後、スポーツ新聞一面に『越前選手、熱愛!?』という文字が踊るのだが、海堂が知る由も無かった。


END

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