捧げ物。

□六花の呪縛
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 朝目が覚めたら、音が無かった。


 冬の早朝らしく冷え切った薄明るい部屋は、奇妙な程静か、で。

 ・・・・・・左目だけじゃなく耳までついにイかれたか?
 布団からむくりと起き上がって障子を開けると、窓の外は一面の銀世界だった。



 __雪は、嫌いだ。

 その色がその性質が、あまりにもあいつに似ているから。


 踏みにじって汚したくなる。





 『高杉〜お前又単独行動したんだって〜?危ないって言ってんじゃん。いつか死ぬよ?』
 
 『はっ人間はいつかは死ぬんだよ。早ぇか遅いかの違いしかねぇ。・・・・・・それに、他人に自分の背など預けられるか。足手まといになるならまだしも、後ろから切られたらたまったもんじゃねぇからな。』


 俺がそう言うと、あいつはいつも少し呆れたように屈託なく、、しかし奥に闇を抱えた目で笑って俺を見た。

 『だったら俺に頼ればいーじゃん。白夜叉、ならお前の背中くらい守れるぜ?』



 きらきらと銀の髪が陽光に透けて、その微笑は冷たさの中に暖かさを含んでいて。



 眩しすぎて直視できない。




 俺がずっとお前に頼らなかったのも、お前の誘いを断っていたのも。

 お前の輝きが強すぎてずっと傍にいられるとはどうしても思えなかったから。



 
 久しぶりに会ったお前は、あのどこかひりひりとするような微笑ではなく、どこか温い目をして気の抜けた顔で笑っていた。

 


 

 絶望に突き落とされた感覚。

 白夜叉は、あの白夜叉は、もうお前の中にいないのか?


 あんな顔は、知らない。


 取り戻したい。
 
 取り戻したい。

 今度は鎖を付けてでも傍に置くから。
 
 だから、もう一度。









 剣を交えて、確信した。


 あいつの中の白夜叉は、まだ消えた訳ではない。

 眠ってしまっているんだ。
 
 この平和な真綿のような世界に晒されて。




 「__お前をその居心地の良い檻の中から引きずり出してやるよ。」





 手の中の雪は俺の熱で溶けかかりながらも、中心の冷たさは保ったまま、俺の指を冷やす。








 __六花に吸われた音は、もう永遠にその呪縛から抜け出せないのだから__

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