壱
□あなたが死ぬ?あの人を殺す?それとも私を殺してくれる?
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桜が満開の時を迎えた。
薄い桃色の花を枝いっぱいにつけて、春の柔らかな光を受け止め白く淡く光っている。
そんな満開の桜の下で主と皆と花見をしたのは、とてもとても遠い日の様な気がするし或いは夢であったのかもしれないとも思う。
人は巡る季節毎に変わりゆくが、生ける花々や草木はどれだけ時が巡ろうと変わることはなかった。
変わったと思うときはきっと見る者の心持ちが変わったという時であろう。
ひとり桜の木の下で酒を呑みながら過去を散策した。
酔いも手伝い、主の若い頃や喧嘩をした日の事や皆と笑い合った日々を思い出し、笑みがこぼれた。
平時は思い出す前に帳を降ろすが、今日は何故か嫌な気はしなかった。酷く懐かしい。
…しかし、今は誰も居ない。
「……………」
笑みを浮かべたまま、目線を下げて杯に映る白い花びらを見詰める。
静かに溜め息が漏れた。