□手に入らないもの
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今宵も獰猛な獣の様に梟を貪った。

「渇いているのだ」

と囀った梟の深層に同じ匂いを感じつつ唇を塞ぐ。

漏れる吐息に熱を上げながら逃げる舌を己のそれで追いかける。
濡れた唇は酷くなまめかしい。

「卿はどす黒いおとこだね。」

余裕を浮かべて笑うその顔に心の奥で何かがたぎった。

「あんたほどではないさ。」


再び唇を重ねよく囀るそれをきりりと噛んだ。
口の中に広がる鉄の匂い、鼻を抜けるそれに下半身が熱くなる。


「卿はなかなか嗜好が傾いているな。
なるほどコレでは彼の人は抱けまい。」


相変わらずせせら笑う梟の首筋に噛み付いた。

「あっ…」


囀りを遮るのは実に心地よい。

「テメェはちったぁ黙れ」

梟には癒えかけた傷が無数にあった。
その半端な傷をまた抉り血を誘う。

「っ…止めたまえ、」

拒絶の色が濃くなるが、
それを無視して行為を続ける。


苦痛に歪むその顔が堪らない。
熱くなっていく体、溶けてしまいそうだと思った。

「右目、私は若くないのだ。少し苛烈すぎやしないか、」

痛みのせいか少し潤んだ瞳で見つめられ、こうして男を墜とすのかとふいに笑いが出た。
「何言ってんだ?こういうのが好きなんだろう?」

嘲り、行為を続ける。


「…はっ、…苦しいのだ。救ってはくれまいか?」

梟は心にも無いことを平気で口にした。

この男は何時だって恐怖を感じてはいない。きっと死する時も嘲笑を辞めないのだろう。

そう思うと何故か胸が締め付けられるような気がして、たぎるものを我慢できずに自身を梟の後部にあてがい
貫いた。

「あっ…」

低い声と眉間に寄せられた皺と火照った体。
梟もただの男だったかと錯覚した。


「右目、実に猛々しいな。本当は梟などではなく、龍を抱きたいのだろう?」

圧迫感に苛まれながらも笑い紡がれたその一言に酷く心がざわついて、容赦なく腰を打ち付けた。


熱くて熱くて、脳髄が溶け出してしまうのではないかと思った。

呼吸が速くなる。

手に入らない梟の心に酷く焦燥に駆られ
己の劣情を梟の奥へと全て吐き出した。
吐き出しながらまた首筋へ甘噛みを施す。

締め付けられた自身にふいに噛む力が強くなる。

「噛み殺すつもりかね?いや物騒。
手に入らないものを力でねじ伏せようとする、卿はまるでたちの悪い子供だよ。」
この男は分かっている、
俺の抱える感情を。


しかし分かりきってはいない。


俺が欲しいのは政宗様ではない。
他でもない梟の心なのだ。


「いい加減にしたまえ。」


辛そうに梟が呟いた。
外は白みはじめ太陽の匂いがやってくる。


梟は白い靄の中に意識を手放した。





〜終わり〜
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