いち

□深層に隠れた傷を洗うのは
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火照った体を冷やそうと空を駆けたがなかなか体温は下がらず、半蔵は湖畔へ辿り着いた。


この湖畔を始めて訪れた時、酷く懐かしい感覚に捕らわれた。
始めて訪れたのに肌に馴染む空間、まるで昔から通い親しんだような不思議な感覚だった。
それからというもの、半蔵はよくここを訪れるようになった。

そよそよと優しく吹く風が柔らかな草葉を撫で、留まる水面に動を与えていく。


と、水面がばしゃりと波打ったかと思うと湖畔にあった半蔵の体は湖面へと消えた。

流れがなく柔らかい水は川のそれのように冷たくはなかったが、半蔵の火照りを冷ますのには十分で。

暫く重力に任せ湖底へと沈んでいく。湖にしては澄んだ水だ。


肺の中の酸素がなくなり少し苦しくなったところで、水面へ戻り酸素を吸った。

風にあたり濡れた体を乾かそうと静かに水辺へ上がり腰を下ろす。

あまり長く居て良い場所でないのは分かっていたが、懐かしさからか動くことができない。

木に背中を預け目を閉じると、またあの夢を思い出して不快な気持ちになった。

と、溜め息を漏らすと
周りのそれとは異質な風が一吹き、吹いたかと思うと嫌な気配が現れた。
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