いち

□深層に隠れた傷を洗うのは
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早く終われ、早く終われ、
心の中でそればかり念じていると狼の動きが止まった。

急な静止に不意をつかれて力を込めてしまった。それに気を好くしたようで狼がにんやりと笑う。

「きゅうきゅうと締め付けよる、ほんにういやつよの。
うぬのせいで忘れるところだったが、我はうぬのカラダを穢しに来たのではない。」


何を今更何でもいいから早く済ませろ、
小太郎の話は聞き流し気味に半蔵はもう考えるのを止めるつもりだった。

「うぬは何を叫んでいたのだ?」

覚えのない事だ

「叫んで、など…いない…」

「泣いていたではないか」

何の話だ、

「何がそんなに辛いのか、うぬをそんなにまで苛ませるものとは何かと思い立ち寄ったのだ。」


何の事だ?


「父親か、それともあの小柄なもののふか?」


霹靂が起きた気がした。


雨の日を思い出して、半蔵はよく分からなくなった。


小太郎は暴れる半蔵を抑えるのに必死になった。こんなに暴れる姿は見たことがない。
そんなにもこやつの傷は深いのかと、そしてこんなにもその傷を深く深くに隠しているのかと驚いた。

地に半蔵を押し付けて動かないように制止する。
やっとの思いで術にかけた、
手負いの獣の様に荒い魂は鎮めるのに酷く精神を削いで。


荒い息を繰り返す口に自分のそれを重ねる。
いつもは頑なに閉ざされているそれは今はすんなりと小太郎を受け入れた。

この犬は寂しいのか?

一瞬よぎったその言葉は掻き消して、絡み合う舌に下半身を任せることにした。

長い接吻を終えると、また上り詰めたらしい半蔵が今度はしっかりとこちらを見つめて
というよりは睨み付けて

「責任はとれ、」

と冷たく言い放った。

先程までの姿は何だったのか、とっくに術は抜けたようで開き直ったような顔をしている。

唖然としていると

「何を呆けている、欲しいのだろう?」

ちらちらと赤い舌を覗かせながら半蔵が笑う。


狼の猛りに貫かれながら快楽に身を任せた。
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