壱
□節分の接吻
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久秀は自室へ戻りどさりと四肢を投げ出して天井を仰いだ。
先程の喧騒がまだ耳に残っているような気がして、頭を振って振り払おうと試みる。
笑う声、鬼はどこだと叫ぶ声、鬼を見つけたとはしゃぐ声、みな童心に返ったように躍動していた。
馬鹿馬鹿しいと豆による被害を被りながら逃げたが、今みなの顔を思い出すと不思議と悪い気はしなかった。
これだから長慶様は…
考えながらゆっくりと眠りへと誘われていった。
「鬼が居たぞー!!!」
遠くで声がして大量の豆が投げ込まれる。
あまりの多さに久秀は豆の中に埋もれてしまい…
胸の圧迫感に息苦しさを覚え豆の世界から現へと意識が浮上する。
現に戻っても息苦しさからは解放されず、誰かの声がした。
「…ひで、…さひで、……久秀!」
よく聞き慣れた澄んだ声、目を開くと覗き込む主と正面から眼が合う。
「やっと起
きたか、全くお前は。」
やれやれと言った様子で主が笑う。
とりあえず覆い被さるような体制を辞めて欲しかった。
「長慶様、重いです。どいてください。」
しかし主は目を細めて笑ったまま退こうとしない。
「長慶様、」
少し苛立ちを覚えたがそんな事どこ吹く風、主は何か企んでいるようだった。
「久秀、お前の鬼なかなかよかった。」
「それはそれは。おかげであちこち痛みます。」
「たかが豆だろう?」
くすくすと主は笑う。
「では投げつけて差し上げましょうか?体感は見聞に如かずです。」
不機嫌に久秀が返す。