□にゃんにゃん
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「何ですか、ソレは。」

自室で将軍への公式文書を認めていた久秀の元へ、酷く上機嫌な主がやってきた。

手には不可思議な物を抱えている。

主は事あるごとに変わった趣味を披露し、事あるごとに久秀を巻き込んでいった。

今回も何か思い付いたのだろう、にやにやしながらやってきた。
嫌なため息が出る。

「知っているか?今日は猫の日らしい!」

それが何だというのだ。

きらきらと音がしそうな程に目を輝かせているであろう主を視界に入れずに、仕事を続ける。


ふっと頭に何かが付けられた。


黙ったと思えば、今度は何をしたのか。

仕方なく顔を上げ主を見る。満面の笑みだ。

「よう似合うておる。」

抵抗すれば主の思うつぼなので、何も言わずまた書に目を戻し筆を進める。

そのうち飽きてしまうだろう。

が、今回は(も?)長慶は引き下がらなかった。


くすくす笑ったりにやにやしたりしながら長慶は久秀が仕事を終えるのを待った。

本当にめでたい頭の人だな、と久秀は心の内で呟く。

書き終えた書に主の押印を施し、封をする。

 
待ってましたと言わんばかりに主が近付いてきた。

「久秀、猫はマタタビが好きだそうだ。」

「知っています。」

「なんだ、つまらんな。」

「正確には酔うのです。」

「そうか、ますますつまらん。」

「ところでお前は何に酔うのだ?」

「私は酔いません。」

「ふん、強がりおって。まあいい、今日は頭のソレを外すなよ。」

そういえば付けられた事を忘れていた。鏡で確認し久秀は落胆した………猫耳…。

いくらなんでもコレは少々悪趣味だ。

「長慶様お言葉ですが、良い年をした中年がこの様なアイテムを付けていれば…些か精神を患っているように見えますが。」

「良い、私も付ける。問題なかろう。」

人の話は全く聞く気がないようで主はそそくさと自分にもその王道アイテムを付けた。

ややつり上がった目に不適に笑う口、変わっていると自覚があるのか無いのかその揺るがない自信、長慶は猫というより狐の様だった。


「あぁそうだ。」

ぽんと手を叩き主が言った。

「これも履けよ。私の手作りだ!」

ぽふりと渡された物に血の気が引いていく。

「…何ですか、この悪趣味さは…」

渡されたそれは褌、広げてみると
褌の丁度尾底付近に当たるであろうそこにはなにやらひょろ長いものが縫いつけてあった。

さっきとは変わり、みるみる久秀の顔が赤くなっていく。

「こんなもの履きませぬ!」

「長慶様、そこへ座りなさい!」

こうして三好家では遅くまで説教が続くのでした。

(久秀ももう少し遊び心があっても良いのだがな。)



終わり



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