弐
□弟と梟
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今にも雨が振りそうな灰色の空の下、三好軍は陣を構え今戦が始まろうとしていた。
陣を構えるは三好長慶の弟十河一存と三好家家臣松永久秀。
顔を合わせたことはあったが共闘するのは初めてだった。
兄が家督を継ぎしばらく後に三好家に仕えるようになりいつしか兄のすぐ近くに居た男。
一存はこの男があまり好きではなかった。
何にも興味がないようでいて、誰も気にかけないことに執着する奇妙な質。
兄がこの男を信頼する意味が一存には全く分からなかった。
(こんな何を考えているか分からない奴…)
「私に何か付いていますかね?」
自分でも気付かないうちに凝視していたらしく、此方を向いた久秀と目が合う。
いつどんな時でも揺るがない立ち居振る舞いもまた一存は気に入らなかった。
「いや…なんでもない。」
「そうですか。戦をご一緒するのは初めてですね。」
射るような眼差しに少し悪寒を感じて目を逸らす。
遠くで低く伸びる法螺貝の音、開戦の合図。
「…今日も沢山、人が死にますね。」
「……………。」
冷たく笑う久秀を見て一存は眉を歪めた。