□嫌いな二人
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「ねぇ、松永さん。俺はあんたを許さないよ。」


憎いはずなのに何故


「それは良かった。私も卿から許される気は全くない。」

友を奪った男、
この男さえいなければ…と思ったのは遠い昔。

「松永さんは俺の事好き?」

「大嫌いだ。」

「そう、良かった。気があったね、俺も俺の事大っ嫌い。」

笑うくせに笑っていないこの大きな幼子は見ていて遠い昔を思い出す。

そう言えばこんな男が前にも…過去へ飛びそうになった意識を己に跨る男に戻した。

「卿はひらひらと飛んで目障りだな。」


「そう?松永さんもふわふわしてて苛々するよ。」

逞しい体がのし掛かってきては、その重みに胸が潰されそうになる。
重たい
と何度言ってきただろう、それでも止めない愚かな男。


「松永さん、前に俺のこと小鳥みたいって言ったよね?」

「言っていない。
卿を跪かせるのは、飛ぶ小鳥を握りつぶすような愉悦があると言ったのだ。」

「……………前から思ってたけど、松永さんてえげつない。」

「それは良かった。」

この男は解らない。
子どもの様に笑ったかと思えば、笑みの裏に隠れる悲しみはどこまでも深く。
その深く冷たい様は人を拒絶する荒れた海のようだ。

その水面に浮き沈み揉まれるのは己。

人は陰と陽との両面を持つがこの男はそのどちらもが深く濃く強く。
その差にきっと自分自身で驚き傷付きまた更に深みへと。

「卿は、生きにくい男だな。」


覆い被さるような格好で見下ろしてくる男を見上げ頬に触れてやる。

「でも、死ぬのはイヤなんだ。」


「ほう、我が儘なのだね。」


「そう。だから俺は秀吉を…」


そこで詰まる男の言葉。
まだ引きずっているのか、私はとっくに線引きしたというのに。

生きたかった。
だから秀吉を止めきらなかった。あの時の秀吉は危なくてきっと俺も殺されていたかもしれない…

「卿は信じないのだな。」

「え?」

「卿は何も信じていない。他人も自分も。」

「……………松永さんに何が分かるのさ。」

「分かるとも、」

私と瓜二つじゃあないか。


風に流れる髪がしなやかで美しい。柔らかそうなそれに触れれば手に優しく絡みついて離れない。

「卿が欲するのは信頼だ。」

きっともう手には入らないだろうがね。


 
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