□藍
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風が舞っている。
先程まで青く澄んでいた空は強い風に流され出でた灰色の雲で、重たげに満たされた。
しっとりとした空気は全てを湿らせ包んでゆく。

「ほう、実に美しい。」

少し前をゆっくり歩く梟雄と呼ばれた男は、まるで散歩でも楽しむかのように感嘆を漏らしさらりと言った。


極稀に小十郎は男を牢から出した。
何故、
と問われれば答えは明白だったが、答えてしまえば全てが崩れ落ちてしまう。
という事も明白であった。
苦い想いを抱きながら男を連れ出した。
余程ひどい顔をしていたのだろう、梟は笑う。

「また、一段とひどい顔だな。
そんなに苦しいならやめればよいのに…卿も余程きれているらしいな。」

くつくつと笑う男に胸が切なくなる。


それでも梟が着いてくるのは…
そんな事を考え始めて、小十郎は続きを考えてはならないと目の前の男に意識を戻した。

湖の畔に植えられた紫陽花は今満開を迎えている。
この辺りの紫陽花は八重咲きだが色素の少ない極薄い水色だった。

 
「ふむ、此処の土壌は中性か…」

その淡い色合いは薄仄かな光を浴びて、美しく輝く。

はじめこの景色を見たとき、
きっとこの景色をこの男は好むだろう、
とまるで女に対するような感情が湧いた時とても困惑したが結果連れてきてしまった。

つくづく救えない男だ、
と自身を嘲笑った。


「これは、隻眼の竜の趣味かね。」

規則的に並ぶ萼を見ながら久秀は竜の右目に問うた。

「…いや、先代の………」

「…そうか。」

冷たい風が吹く。

「あの若き竜は、きっと悲壮な顔でこれを見るのだろうな。」

先日此処を何の気なしに訪れた。
先に来ていたらしい政宗に声をかけようとしたが、その顔を見て動けなくなってしまったのを思い出す。


「てめえの眼は、いったい何処に付いてやがんだ。」


見ていたのかと思うほど、この男は勘が鋭い。
だからこそ、今もこうして生きているのだろう。

 
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