□業火
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炎が身を包む。
肌を、髪を、喉を、肺を、全てを燃やして灰へと還さんとした。
酸素も思考も命も奪おうと迫る炎の中をただただ走り逃げ惑い、冷たい空気の中に出ればやっと酸素を与えられた。
やっと得られた筈の待ち焦がれた酸素は毒の如く、思考をもたらし、空虚をもたらし、現実を突き付けた。

燃え落ちる家を見て感じたのは、恐怖。と後悔。

『兄上…』

弟の眼に映る自分は酷く畏れた顔をしていた。

『大丈夫。』

そんな畏れを振り払おうと笑ってみせれば、まだ幼い弟は自分にしがみつきただ泣いた。
そんな弟の髪を撫でつけてやるしかできなかった。










業火










 
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