いち
□雀
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冷たく湿った地
打ち付ける雨は
とてもとても傷口に沁みて
いっそのことこのまま地に溶けてしまえたら
どんなに楽かと
柄にもなく考えていた。
地にひれ伏しながら。
煌めき
「雨が強くなってきたのぉ、良い天気であったのに。早く戻らねば。」
秋の空は実に変わりやすい。
趣味の山菜採りの帰り、急な雷雨に見舞われて困った顔の大らかそうな主、家康は山道を急ぎ足で馬を走らせていた。
青く澄み渡っていた空には灰色の雲が重たくのしかかり急に夜の帳が幕を降ろし始めていた。
「殿、少し後ろを走って下され。」
どうしても山菜を採りたいという主に仕方なく付いてきた側近の武将が言った。
「なにやら不吉な予感がします故。」
やや紫がかったその力強い眼差しは、雨足で先が不明瞭な山道を見据えていた。
「不吉な予感とは、嫌なことを申すでない、忠勝。」
少し眉を潜めてその主も山道の先を見詰めた。
何かが道に居るような、そんな気がした。