いち
□沈みゆく
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まだ凛とした空気を湛える寒空の下、日溜まりは少しだけ暖かく。
猫達も陽向の元で微睡みに身を任せるように眠っている。
そんな姿を大柄なもののふ、本多忠勝は目を細めて微笑み眺めていた。
最近寒さにかまけて外に出ていなかったな、と思い運動がてら散策でもする事にした。
軽装で脇差しのみ携えゆっくりゆっくり木々の中を歩く。
時折吹き抜ける風はまだ身を刺すような冷たさを残しており、忠勝は少し身震いした。
そうして何ともなしに歩いていると少し先に見慣れた忍の後ろ姿を見つける。こんな所を歩いているなど珍しい。
どこに向かっているのか、歩いているはずの相手に駆け寄るが距離は縮まらず。
名を呼んでも反応はなく、
忍の耳に届かぬ筈はあるまい、ならば聞こえぬふりをしているのかと思えば少し腹が立つ。
このまま見失うのも癪なので、忠勝はついて行く事にした。
半蔵が脇目も振らずに向かう先はいったい何処なのだ…
忠勝の中には好奇心と少しばかりの嫉妬が渦巻いていた。
様々な妄想を巡らせていると、ふっと半蔵が茂みの向こうに姿を消した。
此処まで来て見失うわけにはいかない、
忠勝は小走りに駆けた。