いち
□鬼人
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酷い血の臭いと屍の数、
感じる生命は一個体のみ。
その気配はよく知る気配。
赤い魔が風と戯れていると、西から噎せ返るような血の香り、鼻を擽られる。
そして危うい程の殺気につい気を取られる。
山のように出来た死屍累々の上に立つ小さな体、そこからそれは発せられていた。
荒く吐く息の音に、余程暴れたと見える。
全身は返り血でしとどに濡れそぼり、鳶色の眼がぎらぎらと怪しげな光りを宿して眼下の屍を睨み付けている。
危うい戦いをしよる。
言葉とは裏腹に赤い魔の顔は歪んで自然と口端が上がる。
それはこの忍の家に伝わる戦法か、若しくは生まれつきのものなのか、色々と枷を外してしまっているらしい。
純粋な狂気。
戯れに近付くと、思いも寄らない速さと強さで捕らえられ地に叩きつけられる。
軋む体、常の力とは違うらしい。
押さえつけれた肩はみしりと音を立てた。
それでも真っ直ぐに見つめてやるがその眼は半蔵
のものではなく、唯殺戮するだけの獣の眼だった。
ほう、ここまでか。
と呑気な事を考えていると、首筋に噛みつかれた。鋭い犬歯が痛みを連れて侵入して、頸部の血管を抉り外界と交通する。
そこをきつく吸い上げられ体内の血液が小さな忍の口へ、喉へ、体内へ。
ごくりと飲み込み、
顔を上げた忍と眼が合う。
満足気に笑う忍を見て下半身が疼いた。
再び、もう片方の首に噛みつこうとして獣の動きが止まった。
ほんの一瞬、
一瞬で変わる眼の色、そこには常の半蔵が居た。
赤毛を押さえつけたまま目線は遠く彼方、
こんなにも簡単に戻れるのか、
少し不愉快に思い眉を顰めた。