いち
□触れてはいけない。
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喧騒が木霊する。
からりと乾いた日だ。
鼻から空気を吸えば、湿度のないそれが粘膜を刺激して渇いていくのが分かる。
砂埃にまみれて流れる汗を拭いながら、戦況を見据えていた。
奇襲のために少し高い崖の上から、敵が進んでくるであろう道を見下ろしていた。
あちらも奇襲を企んでいるらしい。
奇襲は好まないが、致し方無いこと。この乱世では手段を選んでいる隙はない。
今回の戦の相手は徳川軍、あちらには有名な伊賀の忍衆が居るらしいがこちらにもよく訓練された忍達が居た。
どちらの忍が優秀か。
それにしてもじりじりと照りつける日差しは美しく、戦を忘れて魅入ってしまうほどだった。
と、乾いた空気の匂いを嗅いでいるとふと嫌な臭いがしてきた。
何度嗅いでも慣れることのない、血のにおい。
眼下を見ると敵軍が進んでゆく。酷く血に濡れていて、きっと仲間のものだろうと嫌悪が湧く。
自分も同じなのだが…
眉をしかめながら、後ろで待つ足軽達に手を挙げ合図する。
「かかれーーーっ!!!!」
崖を滑り降り、山の茂みより飛びかかり、真田の奇襲隊が徳川の奇襲隊を取り囲む。
「なっ!?き、奇襲だ!!!」
徳川の奇襲隊の頭と思われる者が叫んだ。
が、その者は笑っていた。