いち

□蘇生
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白い肢体に刻まれた古い傷跡、それとは別にその肢体を千々に斬り裂かんとしたであろう真新しい傷が数多。
鋭い刃物で与えられたであろうそれはぱっくりと紅い口を開けている。
白い躯の持ち主はもうすぐ息を継ぐことも辞めてしまいそうだった。

「手酷くやられおったの。」

その開いた傷口に指を這わせてみても反応はなく、ならばと舌で優しくなぞれば僅かにうめき声が聴こえた。

「うぬならば、」

痛みのためか僅かに開けられた小さな口へ轡を嵌める。
これからする行為の最中に舌を噛んでしまえば本末転倒であるから。

「耐えうるやもしれぬな。」

次いで目を黒布で隠し、黒くにびいろに光る重たく冷たい鉄の枷を四肢にはめてゆく。
しかと固定するのはこの男の身体能力の高さ故だ。

死にかけていても忍、痛みを与える者には容赦なく牙をむくだろう。
そういう風に躾られているはずであるから。

(難儀よの、)

そうしておいて赤毛の男は髪を結い直し、小さな切子に液体を数種類入れて混ぜ合わせ始めた。
土色や黄色、若木色の液体を混ぜ合わせればいつしかそれは無色透明に変わっていた。

それにしても、
風魔は合点がいかずにある事を考えていた。
 
半蔵に数多の傷を付けたのは誰か、
という点だ。

紛いなりにも忍びの里の頭領である半蔵がこんなにも傷を受け、死にかけているのだ。
相手も相当の手馴れであるだろう。
しかし相手が半蔵であれば無傷で帰還ともいかなかったはずだ。

「まあ、いずれ知れようよな。」

うなだれる小さな男の顎に手をかけて上向かせる。
轡を嵌めた顔は否応にも雄の本能を駆り立てた。

「物言わぬうぬもなかなか、」
「家康に会いたくば、耐えてみせよ。」

耳元で囁けば案の定、家康の名にぴくりと反応した。

(どこまでも従順な犬め。)

予想通りの反応に、腹立った自分にも腹が立ち風魔は顎から手を離した。


 
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