咎狗の血

□狂
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「うあっ…………っ、くっそ…」
「……………………」
「もっ、…舐っめんな…………あっ」
「嫌なわりには、いい声が出るな」
「…………ふ、…はっ」
「あの男によくしつけられている」


いったい、何故こいつが此処に居るとか、いったい、なんでこいつに組み敷かれてるのかとか、全部どうでもいい。
どうしてか分からないけど、この男がどうしても好きになれなかった。
だから、一刻も早く殺したい。
なのに、自由のきかない体に苛立ちが募る。

「さっ、さと…………しろよ、馬鹿…………っ」
「あいつはそんなに早いのか?」
「は、あ?!」

どうして、勝てない。どうして、殺せない。どうして、こいつは俺を殺さずに、

「そう、急くな。お前は征服しがいがある」

睨めあげてくる赤い瞳が、血みたいな色で綺麗だ。
だが、欲しいのはこいつの血じゃない。もっと、濃くて赤くてどす黒くて、凶悪な。

(キリヲ、)

「…………っ、はっっ!」

一瞬浮かんだ犬歯のちらつく歪んだ口元。次の瞬間、脳天を穿つ程の激痛が脊髄をかけのぼった。

「あっ、…………ああ"、っ」
「ふん。意外とキツかったな」
「…………っおい、…抜っ、けよ!」
「馬鹿を言うな」

痛みには慣れているつもりだった。窮鼠猫を噛む、と言うように追い詰めた獲物から反撃を喰らうことも少なくはなかったから。
だが、そこはそんなに刺激を受けることも無いところだった。アイツにされるときだって。
冷や汗と、息苦しさが襲う。喉がひゅうと鳴った。

「ぐ、うぅ…」
「意外と、大事にされているんだな」
「や、…………ぶっ、殺してやる…………」
「ふ、雌がいきがるな」

屈辱以外のなにものでもない。手は後ろに縛られて、四つん這いの形にさせられているが手で突っ張れないから酷く滑稽な形になっている。
挿れられた雄の証しは、熱く硬く狂暴なまでに怒張している。そんな質量が、慣らしもせずに無遠慮に一気に貫いてきたのだ。
快楽もなにもあったものではない。

ただ、殺意だけが次から次へとわいてくるのだ。

「ふん」
「ーーーっ、」
「動き辛いな」
「くっ、そ…!触ん、な、よっ!!!」

男は本能に任せて腰を前後に揺すりだした。だが、痛みでそこは収縮しているし感じていないから湿り気も帯びない。動きに不自由を感じたらしい男の手が、辱しめを受けている男の象徴に伸びた。
冷たい、無機質な指が絡む。機械のような指がゆるゆると刺激を生む。

快を知らない体ではない。触れられれば、記憶をたどり、否応にも息は荒くなる。鼓動が速まり、抗えない波が押し寄せてくる。

「存外、愛でるに値する」
「ヤメロ、触んじゃ、ねえっ!……………………あ、」

脳が記憶を履修してゆく。
高まる快楽がそこに血潮を集めだす。意図などするまもなく、後腔の中のものを締め付けていた。
熱くなったものを扱く動きと同じように、抽送が再開される。

快楽には滅法弱い身体。脳内を一気に行為か支配する。全身が熱くなる。

せめてもと、声を出すまいときつく閉じた唇。しかし、それによって塞がれた声は喉の奥で詰まり聞くものにとってそれは喘ぎ以外のなにでもなくなっていた。

くぐもった声、鼻から漏れる吐息、それらが規則的に刻まれれば男の終着の近さもわかる。

抵抗の声もなく、きっと今はもう艷事しか頭にないだろう。
少しだけ、動きを緩慢に。すると案の定。焦れたのか腰が揺らめきだした。

「…………」
「……も、」
「……………………」
「今さら、や、めるなよ…」

先ほどの威勢はどこにもない。
完全に動きを止めてやれば、男の中が規則的に収縮を繰り返しているのが感じられた。自身のそれがどくどくと脈打つさまもしかり。そして、追い上げられた獣は簡単に陥落した。

己で振る腰の動きにはどう考えても限界がある。男が身体の隙間から此方を見た。青い瞳は美しいと思った。

「…動けよ…………っ、」

その目には色々なものが宿る。
怒り、悔しさ、悦、欲、濡れたその目に食らいつきたい。

見下ろしたまま、笑んで見せた。細められた目が物語ることは、大体見当がつく。

「浅ましいな」
「…はっ!…………てめえも同じ…だろうがよ」
「…………」
「いっ、…………ん、あっ、っ」

男は喉を仰け反らせた。美しい色をした瞳は見えなくなった。黄金の髪が乱れる。

思い切り突いてやった。これはもはや衝動だ。粘膜全体が性感帯と化しているのだろう。吐く息の音だけが、彼の享受する快楽の大きさを物語っていた。

男のそれが手のなかでひときわ膨張した。と、同時に後ろがきゅうと縮む。

「…、くっ」

楔を打ち付けられる男は、息をしていないようだった。白い白濁が灰色の無機質なコンクリートの床に吐き出された。
ぎちぎちと締め付ける粘膜に、更なる追い討ちをかけるように、抽送を強くする。

ギリギリまで引き抜いては、一気に再奥まで貫いて。

「あっ、っ、ああ、…っあ、や、…やめろ!…ッあ、動くなッァ」
「冗談だろう?」

男が逃げの体をうつが、そんなのは知ったことではない。抗議の声に、怒気とともに誘うような色がのる。

汗が滴り落ちるが、そんなのはもうどうでも良かった。

「はっ、あっ、っあっ、あ、」
「…………」
「…………ん、ア"?!」

このまま、獣のように繋がったまま放っても良かったが、この強情な男をどこまでも貶めてやりたくなった。

一度、雄を引き抜き唖然としている男を転がした。間髪入れずに、正面からまた突き入れる。その瞬間も喉をならして、目を見開き驚きを見せていたが、次の時にはまた苦痛と快楽がない交ぜになった顔を晒した。

そのまま、男を騎乗位の形にした。手は後ろに縛られて自由が利かない。
重力で今までより深くなった結合は彼にとっては苦行だったらしい。触ってもいない彼の徴は、起き上がり透明なものを先端からこぽこぽと吐き出していた。
きっと、己の体躯をはじめて呪っただろう。

得たくないものを無理矢理に与えられる。それを悦ぶ身体。
酷く嗜虐をそそる。

瞳の奥に確かに宿る怒りと殺意は、色欲に今隠されている。あの野犬の下でもこのように喘ぐのだろうか。人を殺して快を得る男の姿とは思えなかった。

「キリヲ、と言ったか」

ぎゅうと後ろが収縮した。なるほど、わかりやすい。

「…………」

何か言いたそうに睨み下げてくるが、赤みを帯びた頬から分かるように、今の彼は言葉を発すれば終わりだ。

そんな些細な抵抗が、支配欲を刺激した。

「…………?!、うっ、あっ、あ、あっ、っあっ、ああ、」


もはやこちらも本能のまま。
突き上げた。力任せに。
下からの突き上げと、その反動で己の体重分沈む力と。できるだけ中のしこりを刺激してやるように角度をつけながら。

手を縛っているから、顔を隠すことができない。明らかな感じた顔を晒して、また男は白濁を吐いた。そのあとも、強制的に勃たされてイかされ 続けて、開いた口からはあられもない声が漏れた。

「善いだろう。止まらぬ絶頂だ、癖になるだろう」

己の声にも余裕がなくなっていた。
射精感を耐えに耐えてきたのだ。
だが、そろそろ限界だった。目前の男の痴態に、今にも雄は弾けそうだ。

だらしなく開けられた口から、熟れた赤い舌が覗く。
思わず口付けていた。
噛みつかれるかと思ったが、惚けた頭ではそうすることすらできないようで。
健気にも舌を絡めてきた。思い切り吸って、口内で舌を甘く噛んでやった。その度に腰をすり付けてくる。
同時に、胸の飾りを摘まんでやった。びくりと跳ねたかも思えば、腹に暖かな感触が伝う。また、絶頂を迎えたらしい。

欲情した獣のように、鼻息が規則的にかかる。熱いそれ。

もう、この獣は快楽の虜だ。

だが、分かっている。未だこの男に理性が戻らぬ理由を。この男は待っているのだ。まだ、この男が知る最上の快楽は与えられていないのだ。

男は、腰を前後に揺すりだした。誘っているのだろう、己を犯す男の絶頂を。

あれだけ感じて、あれだけ絶頂を迎えてなお足りないと言う。ナカの快楽が。

「…………痴れ者、」

男を床に横たえる。自分でも滑稽だと思ったが、腰の動きは止められなかった。
もっともっとと、ねだるように収縮し続ける後腔。みっちりと絡み付くそれに己の息も次第に上がっていく。

仰け反る白い喉が扇情的だ。

「…………っ、くっ、」
「んーーー、んっ、あっ、っーーー」

がりり、と胸の飾りに噛みついた。男はまたイったようだ。もう、男のものからはなにもでなかったが。

打ち付けながら、中に欲を放った。もちろん、放ちながらも抽送は辞めない。己でも目眩がしそうなくらい熱い液体が男の中にびゅくびゅくと注がれる。

卑猥な音が鼓膜まで犯す。

全身を規則的にびくつかせて、男は快楽という快楽を貪っている。
まだ、射精は止まらない。

グッと一際奥まで押し進めて、再奥で放ち続ける。唇を重ねれば、ねだるように舌が絡み付いてきた。いかなる刺激も快楽でしかないのだろう。
己でも笑いが出るほど白濁が迸る。

それでも、まだ硬度は失われなかった。

ひとしきり出し終えて、まだ硬いそれで中を掻き回した。ぐぷぐぷと、中にだした精液が音を立てる。

中の膨らみを擦れば、もうヤダと子どものように駄々をこねる。濡れた瞳で。

何度も何度も、男が気を失っても、中に出し続けた。一度きりで殺すつもりだったが、やめた。

虜はどちらか。

犬に見つかるこの男のことを思い笑みがこぼれた。
己のものを他の雄に汚された野犬は、果たしてどうするのだろうか。暗い笑みが零れるのを止められない。



 

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