□揺らめいて、陽炎。
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主から「変わった」と言われてから幾月か経った。

今も尚内乱は続き収拾はつかず、
久秀は爆薬の研究に根を詰めていた。

肩が凝る。

内乱が続き、あまり他人は信用しなくなった。
平気で嘘をつき平気で人を陥れる人々、昨日まで共にあゆむと誓った筈の者であってもだ。

人とは恐ろしい。

「滑稽だね、
昨日の友は今日の敵、か。」
ぽつり呟く。

あれからずいぶんと「変わった」気がした。

茶も旨くない、
良い句も浮かばない、
かと思えば
戦場ではぜる爆薬に胸が騒ぎ、
火薬の香りに心落ち着かせた。

「変わった」
と久秀に言った主自身も久秀には「変わった」ように感じられた。


お家復興の為にと奔走する主が好きだった。
主の望みがではなく、望みに向かう主の姿が好きだったのだ、
野望の為に裏切りも平然とやってのけるその姿にそそられた。

平静を装う胸の内は酷く掻き乱され狂っている様も然り。


しかし最近の主はどうも生気が感じられず、久秀には物足りなかった。

「渇くなぁ、はてさてどうしたものかね。」

夜の帳が降り始め夜目の利くうちにと蝋へ灯をともす。
この頃、主の周りの身内が次々と命を落としている。

噂では私が殺したというのが有力な線らしいが、
真相は知らない。

知らないうちに殺してしまっているのかもしれないね、
と自嘲の笑みがこぼれる。

揺らめく炎を見ながら、ふと主の顔が浮かんだ。

どうしているだろうか?どんな顔をしているだろうか?

「たまには訪ねてみようかね、」


自然と足が向いていた。

 
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