壱
□月の無い宵闇に。
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松永久秀は牢の小さな小窓から縁取られ切り抜かれた空を眺めていた。
今宵は新月か、空はどっぷりと暗くちらちらと星が遠慮がちに瞬いているだけで普段より空気が冷たく感じられた。
不覚にも捕らわれ死ぬことも出来ずたらたらと生きていた。
いや、死ぬことはたやすかったが死ぬことを選ばなかったと言うのが正しいのかもしれない。
舌を噛み切る、
或いは出された食事をとらない、
死のうと思えばすぐにそれは手に取れるところにあった。
ただ、選ばなかったのだ。
そんな自分の戯れに口の端を上げて梟は薄く笑った。
今宵は月がない。