壱
□毒嘴
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梟が酷い熱を出した。
今にも消えてしまいそうな命の灯火を前にして、あんなにも憎くて嫌っていたはずなのにどうしようもなく胸が焦がれて苦しかった。
この感情は何だ?
戦のために暫く城を出ていた。
久しく梟を囲う牢を訪れて、訪れた瞬間違和感に襲われる。
いつもそこを支配しているそいつの気配が無くなっていたからだ。
不可解な思いを抱きつつそいつの居る独房へ歩を進める。
もしや…と思ったが、そこにはそいつの姿があった。
何故安堵するのか、自分の感情に少し腹を立てつつ梟へ近づく。
近付いて初めて梟の様子がおかしい事に気付いた。
体を横たえぴくりともしない。ただ上下する肩と、荒い息遣いだけとが伝わる。
始めてみる生物を見るように小十郎は梟を覗き込んだ。額には大粒の汗が乗っている。
「松…永?」
自分でも笑えるくらいに拍子抜けた声で呼ばわるが返答はなく、
荒くつがれる息だけが静寂に響いている。
こんな姿は見たことがない。
「おい、いつからだ?」
現状をうまく飲み込めずに、できるだけ平静を装って見張りに尋ねる。
見張りの男はおどおどとしながら「先日、片倉様が陣に出られて暫く後からです」とだけ言った。