壱
□節分の接吻
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「豆ですか?」
鳩にでもなりたいのか、餅の次は豆などと…
しんと冷え込んだ朝、白い太陽の光が澄んだ空気をきらきらと照らしていた。
そんな空気を眺めながらまた何事か考えついたらしい主が元気よく提案してきた。
「久秀、節分が近い。
恵方巻きも良いが今年は豆まきを盛大にしたい。」
「豆まきを盛大に…如何したら豆まきが盛大になるのか教えていただきたい。」
「ははっ、あれだ鬼は外福は内と言うだろ?
あれを再現してみたい。」
毎年節分になれば主はとんでもない量の豆を庭へ撒いた。
それはもう盛大に。
片付ける者達の事を思うと哀れだった。
それを上回る盛大さとは、考えただけで久秀は頭が痛い。
その上何をどう再現するというのか、久秀の脳裏には嫌〜な想像が巡る。
「再現とは…」
「そうだなぁ…」
しばらく思案した後主の顔がぱぁっと明るくなる。
きっとろくでもない事を思いついたに違いない。
「鬼を誰かが演じればよい!そして皆で鬼に豆を投げて追い出す、さすれば福が来よう!」
キラキラと目を輝かせながら言う姿は、まるで童子の様だと久秀は思い顔が綻んだ。
それも束の間ふとした疑問が浮かぶ。
誰が鬼役をするのだ?
答えは分かっているような気がしたが念のため尋ねてみる。
「ところで長慶様、いったい誰が鬼役をするのですか?」
その質問に何ら動じる事なく主はさらりと「久秀しか居るまい」と言った。
満面の笑顔で。