壱
□あず郎(キリリク)
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「小十郎、えらい寒みぃな。お汁粉食いてえ…」
独眼竜が白い息を吐きながらひんやりと冷えた青空の下呟いた。
そのままパタリと倒れ込み駄々こねmodeへと突入する。
「政宗様、」
呆れた顔でごろごろする竜を見下ろすは、右目こと片倉小十郎。
はぁと着いた溜め息もまた白く形を成していく。
確かに寒い。
外を眺めれば余りの冷えに空気中の水分さえ凍りつき、きらきらと空間が光っている。
大寒波とやらでやたら降る雪にそろそろ嫌気がさしていた。今年の夏はかき氷なんざ見たくねぇな…と心の中で呟く。
小十郎は手塩に掛けた小豆達をことことと煮込んでいた。
こうしている時間は何もかも忘れられる…俺は板前が向いてるんじゃ、などと考えているうちに小豆は柔らかく煮上がった。
「あず郎…立派に成りやがって…!」
過ぎた感傷を、と自嘲し出来上がったお汁粉を主のもとへ。
たらふく食べた主に山積みの書類を片付けるよう言って、小十郎はあるところへ向かっていた。
踏む土がしゃりしゃりと音を紡ぐ。この寒さは土中の水分まで見逃さず凍らせたらしい。
「寒みいな」
耳や鼻が痛くなるような冷たさの中、小十郎は本能のままに独房へ向かっていた。
キンキンに冷えた南京錠をカチャリと開けると、冷えた空気にその音が木霊した。
其処は想像以上に寒く、無意識に足が速くなる。
見渡せば独房の端に塊を見つけ駆け寄り、男の名を呼んだ。
反応はない。
常よりも白くなったような気がして思わず男の頬に触れる。冷たい肌にドキリとしたが、それは杞憂に終わった。
目を開けた梟の一言で。