□その鱗は、瞳は、天翔る翼は一体誰が為に。
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爆ぜた大量の爆薬により産み出された炎、炎に捲かれて灼け落ちたのは天翔る竜。


「…っちっ、おいおいオッサン火加減てものを知らねえのかよ。
そんなんじゃ………焦げちまうぜ!」



「ふん、卿はじりじり炙られて薫製に成りたかったのか。
…いや、人は見た目によらぬな。」


「言うじゃねえか。
いいか、料理ってのはな火加減が命なんだ!初めちょろちょろ………後何とかだ!」


地上でもよく動けるのだな。振り下ろされた刀の一撃は重く、受けた刃を伝って振動が腕の骨を震わせた。


「それは右目の受け売りだろう?卿だって初めから強火しか使えまい。」


剣を振って焦げた竜を薙払う。


「ひゅー、あんた意外にお熱いな。」

片目が弧を描いて細められる。


「だが、生憎俺は喰うの専門でね。
しかも俺の胃はアイアンで出来てんだ、Ha!」


「卿は、右目が居なければ食もままならないのかね。」


カチャリとまた刀を持ち直し、隻眼の竜が駆けてくる。


キンと音を立てて刃と刃が交われば火の粉が飛んで、よく着火しそうだなと思う。


「違えな、俺はナマでも頂けるってこった!


「なっ、」



「俺を焦がした落とし前は、きっちり付けてもらうぜオッサン!」


はっ、と特有の短い笑いを吐き捨てて今度は此方の刀が払われた。


しまっ…た…


愛しい剣は手を放れ地に刺さった。あぁ、また刃こぼれたか。
研ぐのは易くないと言うのに。

仰向けにされて、喉元には竜の爪があてがわれる。

「Haan、これがまな板の上の鯛ってやつか。」

「…鯉だ、」


それにしてもよく晴れた空だ。真っ青な空の色に吸い込まれそうで、眼を細めた。


「どっちだって良いさ、同じ魚だ。それにしても…」


竜の興味が何か捉えたようで一つしか無い目が私のそれに近付いてくる。

「あんたの眼、綺麗だな。」


大真面目な顔で言われて、空の蒼さも忘れるくらいに興が醒めた。


「卿は眼も焦がれてしまったか、哀れ哀れ。」


「いや、何か…オッサンいい匂いがする。」


すんすんと首筋の匂いを嗅ぐ竜が酷く滑稽に思えた。


「卿は鼻も焦げたかっ…あっ!な、な、何をするっ!」


刹那、噛みつかれた。



ぎりりと噛まれた其処からじんわりと痛みが広がる。

「ーっ、こら、…離さないかっ!」


「言っただろ?俺はナマでもいける口だ!」



やっと口を放した竜は満足げな笑みを浮かべていた。


血に濡れた唇を舌でなぞって、さながら竜というより鬼のようだ。


「俺を焦がすからだぜ、オッサン色気ありすぎ。」

「…つっ、よく喋る口だ、食事は静かにしなさいと教わらなかったかね?」


「ん?…知らね。」

あっかんべーっと舌を出される。

「まったく…躾が要るようだね。」

その舌をちょん切ってやろうか、

「あ?」


傲って隙だらけの竜の爪を一つ拝借して、竜を組み敷いてみた。

「竜の活き作りなど、如何かな。」

さっきされたように今度は竜の首に爪を立ててみる。

「オッサン…super悪趣味。」

「ありがとう、とっても嬉しいよ。
そうだ、礼をくれないかね?」

「An?」

爪を喉から離して、舌ではなく竜の右目を覆う眼帯を切る。

「っ!?」

明らかに狼狽する様子に愉悦を覚えた。

「おや、右目はどこに置いてきたのかね?」

次いで左目にくすぶっていく怒りの炎。

「何しやがるっ…」


縫われた其処を撫でながら煩い口を塞いでやれば、体を強ばらせて大人しくなる。


「卿だけ隠しているなんて、卑怯ではないか。」


その眼に映るのは、何に対する恐怖か。

「私にも舌鼓をうたせてくれ。」

にやりと笑えば竜の鱗が逆立ってゆく。


「政宗様っ!」


よく聞き慣れた声が響いた。
なんと鼻の利く事か、


「俺の刀と右目は、高くつくぜ。」

覚悟は出来てんだろうな?
















そのきらきら輝く鱗は、獰猛なまでの光を湛える瞳は、再び羽ばたいた翼は、誰か為に…。




眩しくて、此方が焦がされてしまいそうだ。




end


 
 

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