□嫌いな二人
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「だったら、」


首筋に手が這う心地悪さ、背筋になにかぞわりとした感覚が伝う。

「松永さんの心を頂戴よ。」

真剣な顔で言うものだからおかしくて、つい笑みがこぼれた。

「なにがおかしいのさ。」

瞳に灯るのは暗い炎、周りの明るさを焼き消してしまいそうだ。


「私に心があると思っていたのかね?」


「……………」


「それはとんだ間違いだ。」


「松永さん見てるとさ、ねじ伏せて虐めて俺しか分からなくさせたくなる。」


頭が痛い。
わんわんと脳内を駆け回る不快な音は徐々に大きさを増し現世の音が曖昧になる。

「最初は怖かった、俺何考えてるんだって。」


男の顔が近付いてくる。
逃げないのは、拒絶しないのは、ただ惰情から。

こつ
と額が当たる。目の前には暗い眼がふたつ。


「でもね、気づいたんだ、……が感じてるのは、……に俺が感じる感情は、……だって。」


雑音が酷くてよく聞き取れない。
絡み合う舌に脳は溶けて思考は停止した。
なんだこの焦りにも似た感情は。


 
体を重ねるだけの無為な行為。
快楽を貪って崩壊へと進んでゆく。
幾度同じことを繰り返せばこの子は満たされるのだろう。


私はこの男から友を奪った。それは彼等の招いたことで、言うなれば自業自得。
それを押し付けられてはたまらない。

「いい加減、許してやれば良いのだよ。」

心地良い行為の狭間に紡ぐ苦い思考、己を抱く男はとても悲しげな顔をする。

(その顔はいったい誰に向けているのだ。)

「それ、俺が前松永さんに…言った。」


「馬鹿めが、若いくせに色々考え過ぎなのだ…。」

「松永さん、」


果てる寸前、酷く優しく笑んで日だまりの様な顔をした男は少年に戻っていた。

「ごめんなさい、大好きなんだ。」


ぎゅっと抱き締められて錯覚する。
愛されている、
という愉悦とそれは身勝手な誤解だという自嘲とに何故か涙が出た。


奪った者から与えられたものの中でも、それは異色に光っている。
愛と憎悪は隣り合って見分けにくい。
どちらにも共通するのは『執着』という単語。


抱き締めてくる男の頭に無意識のうちに手を回していた。
温かい。



‐終わり‐


 
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