いち
□焦燥
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「忍だ!忍が逃げたぞー!」
からりと晴れた晴天のもと護衛の者のよく通る声が響いた。
今日もいつものように鍛錬に励んでいた若武者は振り払った槍をそのままに声の方へ意識を向けた。
「騒がしいな」
がやがやと逃げた忍を追いかけるような喧騒が右往左往している。
父上も兄上も外出中、となれば私が捉えねば!
逃げた忍とはきっと捕虜として捕まえていたのだろう、逃げられるとなると少々厄介なことになる。
しかし若いもののふは捕まえた忍の事はあまりよく知らなかった、というより父から話は聞いたが新しい槍裁きの構想中であまり記憶に残らなかったのを覚えている。
とりあえず喧騒のする方へ、と態勢を立て直したとき喧騒とは逆の塀から小柄な何かが地に着地した。
傷だらけの全裸の漢
眼光鋭く此方を見据えている
滴る汗を目に染ませながら若いもののふは息を呑んだ。
その目線から目が離せなかった。