いち
□服部半蔵
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「お主、なぜあのような所で倒れていた?」
大柄なもののふが尋ねる。
そういえばこのもののふに槍の柄で叩かれた様な気がする。
「…………………」
黙っているともののふは使いの者に「忍びが起きたと家康様にお伝えしろ。」と小声で言った。
ここの主は家康というのか、あの今川の人質の…
「忍よ、今から殿が参られる。無礼の無いように。」
きりりとした顔付きで、もののふは言った。
無礼も何も体は動かないのだが、などと考えていたら急に睡魔が襲い意識が遠退く感覚がした。
刹那、襖の向こうから声がして意識はまた現へ掬い上げられた。
「忠勝、入るぞ。」
襖の向こうから聞こえた声、春の日だまりの様だと思った。
耳は無事らしい。
この大柄なもののふは忠勝というのか、本多の武勇に優れた男だと聞いた事がある。
襖がすっと開きやんわりとした空気が部屋へ入ってきた。
自然と目を開けなければと感じ重い瞼を開けた。
「気が付いて良かった。酷い傷だったのでもう駄目かと思ったが。」
覗き込んできたのはふっくらとした男。
「口は…聞けぬか?」
本当に心配しているような顔をするので何か張り詰めていたものが解けた。