いち
□深層に隠れた傷を洗うのは
2ページ/9ページ
うだるような暑さが続く毎日、珍しく深く眠ってしまったらしい半蔵が寝汗に気を害して目覚める。
夏の香りと湿気を帯びた空気が辺りを満たし、騒がしい虫の鳴き声が鼓膜を揺らす。
久々に夜という名称の時間帯に寝た。
それは半蔵にとって幼い頃規則的に寝ていた遠く懐かしい感覚、
思い出したくない記憶も鮮明に運んでくれた。
自分の思い出したものに懐かしさと嫌悪を抱きながら床をするりと抜ける。
蚊帳の外に出ると月が出ていたらしく、夜目の効く半蔵には少し眩しく目を細めた。
虫達の喧騒は続いている。
半蔵が目覚めたのに気付いたのか付きの忍びが側に侍る。
「よい」
その忍びに一言告げて、独りにしろと意味をのせる。
「御意」
辺りは人の気配が無くなった。