いち
□鬼人
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夥しい数の人間を前にして、殺す度に理性が剥がれていくのが解った。
悪い癖。
叫び声が耳に心地よくなり、事切れる寸前の喘ぎにも似たその声は嗜虐を煽った。
立ち込める血の臭い、遠い記憶が鮮明に蘇る。
人としての限界が近付くと度に、身体と精神に掛けてある制御の為の枷をひとつ、ひとつと外していった。
外した後の代償はなかなか大きい。
全てを滅した後、ゆっくりゆっくりとまた枷を填め直してゆく。
外れたそれを填めるのはなかなか難儀だ。
その途中また生の気配を感じ、本能的に捕らえていた。
見覚えがある気がする。
赤い髪と癇に障る笑み、人間としての半蔵が止しておけと言ったが、理性の剥がれ落ちた今、本能には逆らえず欲望のままに首筋に噛み付いた。
血が欲しい。
とくとくと首筋から流れる朱色、自身が酷く興奮しているのが分かる。
もっと欲しくて反対の首に噛みつこうとした刹那、はっとする。
自身でも驚くほどに枷は元の場所へ。
遠く遠くに懐かしい気配、すっと人間としての半蔵が戻ってくる。
すべての神経を懐かしい気配へ。
捜している。
獣は急速になりを潜め、忍は主のもとへ戻る。
「あぁ、半蔵。無事で良かった。」
心配そうな主に良心がチクリと痛んだ。
「酷い血だ、戻って身を清めなさい。」
主の声は暖かく心に沁みてゆき、半蔵は半蔵で居られる。
「御意。」
短く返事をして城へ戻る。
服従とは実に恐ろしいものぞ…
残された赤毛は空を見上げて心の内で呟いた。
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20120222