壱
□常闇への入り口
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暗い、暗い渦の中
遠退いていく白い記憶は
果たしてどんなものだったのか、
思い出す術すらもう。
常闇
彼のものは果たしてどの様な音色を紡ぐのか、
ふと脳裏をよぎる推測。
「いけない、いけない」
茶をたてながら不純な事が沸いて出た。
この頃俄かに内乱が続いている。
武芸は嗜んだが実践は乏しく、戦とは面倒なものだと感じていた。
茶をたてはぜる香りを嗅ぎながら心を落ち着かせるのが常であったが、この頃何かがおかしい。
またひとつ啜ってみるが、旨くない。
「潮時か、」
長く嗜み愛したそれも、先日欠けている部分を見つけてからはどうか今までとは違うような面持ちで。
「欠けるなら、美しく欠けねばね。」
一人呟き
手肌に馴染んだそれを庭先へ放り投げる。
ぱりんと土器のはぜる音、目を瞑り耳に余韻を残した。
「別れだ、還りたまえ。」