壱
□月の無い宵闇に。
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「…んっ…触る…なっ…」
他とは区切られた空間に色を帯びた声が低く響いた。
先ほどまで肌寒かった筈なのに、相手の体温のせいか自分のおかしな熱のせいか肌はしっとり汗ばんでいた。
そんな湿気に嫌気がさして眉を顰めた。
今宵は月がない。
ざりっと土を踏む音がして独房の鍵を開ける音がカチャカチャと静寂に響いた。
また来たのか。
連日の拷問ともとれる陵辱に体が少しおかしかった。
変に寒気がして脳がとろけそうな感覚。
また来たのかと思ったが纏う雰囲気の違いに違和感を覚え気配の方へ視線をくれた。
暗がりで顔がよく見えない。
「ご機嫌如何かな、梟雄。」
現れたのはいつもどこか苦しげな龍の右目ではなく、龍そのものだった。
「おや、君かね。こんな辺鄙な場所にどうした?巣穴が分からなくなったか?」
目を細めてにやりと笑ってやる。
先日の戦で負けはしたが龍自身には深い傷を与えていた。
「もう傷は癒えたのか?」
やはり若さか、龍は元の覇気を帯びていた。
「HA!おかげさまでな。テメェがどんな面してやがるのか見に来たんだよ。」