◆TEXT◆

□禁忌
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声が聞こえる。

「――て……」

明確には聞こえない、しかし遠ざかる気配もない、不思議な感覚の声。その声は女性のものなのか、男性のものなのか。それすら判断できなくて、もどかしい感覚に襲われる。
貴方は誰なの。
そう問いたくても、開く口から音として言葉は発することができなかった。頭の中には、この状況について沢山の言葉が渦巻いているのに、それはどうしても声にすることができない。視界に広がるのは真っ白な世界のみで、期待していた声の主の姿は拝めない。どうしてこんなことになっているのか、とエメラルドの瞳が宙を彷徨った。

「お……い、……から」

声が遠のいていく。
真っ白な世界が輝き出したとき、ああ、この空間は終わるんだ、と他人事のように理解した。やがて声が聞こえなくなり、自分の意識も白く霞んでいく。一度ゆっくりと瞼を下ろせば、思考が波に呑まれていくのがわかった。

――目覚めたとき、彼女は泣いていた。




禁 忌
01 青藍の海に沈む漆黒



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