現代恋愛

その瞳が映すもの
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大学生になってすぐの夏のこと。


三つ下の弟、伸吾(シンゴ)が交通事故に遭った。


命に別状は無いものの、鎖骨を複雑骨折。

全治二ヶ月。

リハビリ期間をいれると半年近くはかかるらしい。



「調子乗って原チャ飛ばすからでしょ。ばっかじゃないの」



母親から連絡が来た時は寿命が縮む思いをしたのだから、これくらいの暴言は許されるだろう。


「うっせーな!死ぬかと思ったんだぞ!」


伸吾は事故の直後にも関わらず、殺しても死ななそうなくらい元気だ。

左腕を固定された痛々しい程のギブスが違和感を呼ぶくらい元気。


その元気さに、安堵しつつもちょっとムカつく。


「そのバカな頭でも打ったら、ちょっとはマシになってたかもしんないのに」


車にぶつかり、飛ばされた割に元気なのは、咄嗟に頭を庇ったからだと自慢気に報告してきた伸吾の頭を叩く。


「実の弟だろうが! もう少し労われよ! 事故ったんだからなっ!」


がうがうと噛み付く弟を一瞥。


「良かったわね、サッカー部で!」


「それで慰めてるつもりかよっ?」


「あたしが慰められたいわよ!」


病院に辿り着くまで、生きた心地がしなかった。


心労でいえば、絶対にあたしの方が上回ってるわと心中で嘆くだけに留めたのは、
それを伝えるのもなんだか悔しかったからだ。


その場に居た、気が弱そうな事故の加害者――ある意味被害者――から連絡先を受け取って、
取り敢えず入院となった弟の着替えを取りに帰るために病室を後にした。


大部屋の準備が整うまでは個室の部屋。


個室ならではの寂しさのせいなのか、
伸吾は何かと美希を引きとめようとしたが、
甘え上手な弟の手に乗せられたら面会時間が過ぎても帰してもらえないと思った美希は、それを無視した。




そして病院の庭先を歩いている時に……出会ってしまったのだ。





汗ばむ陽気の中、敷き詰められた芝生の上で。





……――史上最強にムカつく男に。
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