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□咄嗟の証明
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ある日…。
薫は捜査協力を依頼している事件の進展を報告するため、湯川の元を訪れていた。
「もうこんな時間か…。あまり遅くなると危ないだろう。帰ったらどうだ。」
日が暮れてまもなく経った頃、湯川が聞いた。
いつもなら用が済むと帰ってゆく薫が、今日は珍しく長居しているのだ。
「そう…ですねえ。」
「…」
「…」
何とも歯切れの悪い返事に、湯川は首をかしげた。
「さっきから…えらく廊下を気にしているな。」
先程から気もそぞろな薫の様子に、違和感を覚えていた湯川。何かあるのかと聞くと、薫が慌てる。
「え…。そんなことないですよ!」
そう言う薫の声は上擦っていた。湯川は暫く考えると、ハッとして顔を上げた。
「…そういえばさっき廊下で妙な物音が」
「!!!」
ガタン、と薫は派手な音を立てて立ち上がると、慌てた様子で湯川の側に走り寄った。
ドアから身を隠す様に湯川の後ろに隠れると、耳を塞いだ。
「…嘘だ。というか、やっぱりか。どうせ昨日テレビでやってたホラー映画を見たんだろう。」
いつもの勝ち気な薫からは想像出来ない反応に、湯川は些か驚いた。嘘だと言っているにも関わらず、薫は湯川を盾にしたまま放さない。
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