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□無知なる猫は嘘に溺れる
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アタシは猫。
幼い頃からこの御屋敷に飼われている。
ご主人の名前は"まなぶさん"。
最近気付いたけれど、ご主人は、外の人間に"先生"と呼ばれても返事をしている。"先生"は、"おい"とか"なあ"とかと一緒かしら。
ああ、それにしても今日はご主人が遅い。
もう、部屋の窓からお月様があんなに見えるの。
少し寝ていたいけれど、先生は多分起こしてくれないから頑張って起きていよう。
お月様が、窓を横切ってく。さっきから、お腹のあたりがチクチクする。
とし、とし、とし…。
廊下の板が軋む音。ドシドシと力強いこの音は絶対にご主人だ。
スゥーッと音を立てて襖が開く。
「何だ、起きてたのか。」
ご主人はアタシをみると少しだけ笑った。
「寝ていれば良かったのに。」
ああ…せっかく待ってたのに。そんな事言われると爪が疼くじゃない。
「おいで」
ご主人は屈んで手を出す。いっぱい待ったから、アタシからは動かないの。
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