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□心にも灯を
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とある事件の捜査帰り。
思いのほか聞き込みの終了が遅くなってしまった湯川と薫は、帰り道にあった定食屋に寄って食事をすませた。

店を出ると、台風の影響か冷たい風が二人の頬を掠めた。

「先生、寒くないですか。」

薫は自分を自分で抱きしめる様に腕を回すと、ブルリと震えた。

「ああ…。冷えるな。」

そう言った湯川は、スーツの襟を正すと手を擦り合わせた。

「私、冷え性なんですよ。」

ハアと手に息を吹きかける薫は、心底寒そうに震えている。

「血行不良だな。年齢的にも代謝が落ちてきているんじゃないのか。」

ニヤリ、と湯川が口の端を歪めた。

「し、失礼な…!先生だって指先が冷たくなる事くらいあるでしょう?!」

すました顔で一瞥された薫は、心外だと頬を膨らませた。

「無いな。僕は学生時代から今現在まで日常的にスポーツで適度な運動をし、汗を掻いている。よって、君と違い…代謝の低下とは無縁だ。」

「――む…かつく。」


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