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□パフューム
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「お帰りなさーい。」
「ただいま。」


大学から帰った湯川を、薫は玄関で出迎えた。
何やら難しい名前の学会に出席していた湯川の帰りは遅く、薫が家に到着して間もなくの帰宅だった。

「私も今帰ったばかりなんです。ご飯、どうしますか?」

仕事に進展があった薫の機嫌は頗る良い。やや疲れた顔をしている湯川の腰に手を回すと、励ます様に抱き締めた。
―しかし、いつもならキスの一つもしてくる筈の湯川が動かない。薫は不審に思い、顔を上げた。すると、眉間に皺を寄せた湯川が此方を見ていた。

「―先生?」

「…。」
無言のまま、湯川はグイと薫を押し退けた。

「疲れているんだ。少し休ませてくれ…。君も先に風呂に入るといい。食事は何かデリバリーを頼もう。」

「―…はい。」
それだけ言うと、湯川は自室に籠ってしまった。余程疲れていたんだろうと、薫は一人納得して風呂の支度を始めた。



―しかし、次の日も湯川の機嫌は悪かった。

「…先生。」
「何だ。」
食事を済ませて、また自室に籠ってしまった湯川。薫は、理由を問いただそうと彼に声を掛けた。

「何だ。」
「―…えっと」

だが、どうしても言葉が出てこない。
自分が原因で怒っているのであれば、湯川は指摘する筈…。何も言わないのであれば杞憂に過ぎないのかもしれない。何より、同棲を初めて数ヵ月。自分に嫌気が差したのかもしれないと思うと、恐ろしかった。

「―何でも…ない、です。」

結局、薫は何も言えずに湯川の部屋を後にした。


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