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□相愛性理論
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軽く化粧をし、黒のTシャツを着てカーゴパンツに足を通す。

出掛ける頃には、外は薄暗くなっていた。


「……自転車、ですか。」
「ああ。」
戸締まりをして外へ出ると、シャツにパンツ姿の先生が自転車を準備して待っていた。

自転車に乗る先生がイメージに無かった私は、まじまじと目の前の2ショットを見てしまう。

「後ろに乗れ。」
「逮捕しますよ。」
「じゃあこの蒸し暑い中を歩くんだな。」「乗らないとは言ってません。」
「君はどうしてそう――」
「ひねくれてても好きなんですよね。」

にこりと笑うと、先生は諦めた様に目を伏せて自転車に跨がった。
後部の荷台が無いから、後輪の車軸から出た留め具に足を掛ける。先生の肩に手を置くと、仄かに石鹸の匂いがした。

「こんな乗り方したの、中学以来な気がします。」
落ちない様、背筋をピンと伸ばして僅かな余地に乗せた足を突っ張る。
「行くぞ。後方の見張りは任せた。」
「分かりました。」

ホントに、今日は二人して学生みたいだ。
先生と私が大学時代に出会っていたら、こんな風だっただろうか――…。


「はー、風が気持ち良い。」
生ぬるい風が汗ばんだ身体を撫でる。

「重いですか?」

坂道に差し掛かり、先生の肩に重ねた手の平越しに伝わって来た荒い呼吸。

「見くびるな。」


言うと、先生は自転車の速度を上げた。

肩の筋肉に力が入る、見た目よりもずっと逞しい身体。不覚にもドキリとして、私の頬は熱を孕んだ。

゙ああ、やっぱりこの人の事が好きだな、゙

――…なんて思う。

息が詰まるほど切ない。
視界の隅に入った素肌に浮かぶ筋肉の陰影すら愛しいなんて、絶対にどうかしている。

堪えきれず、私は先生の旋毛に唇を落とした。




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