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□変人と彼女
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二人を見れば、内海が何かを懸命に拒んでいた。
「いぃい、いりませんよそんなもの!」
そう言うと、彼女は両手を前に突き出して拒んだ。
「まぁそう言うなって。お前以外の誰にも見せてない、この世にたった一枚の代物なんだからさ。」
彼女の正面に向き合って座っている草薙は、やんわりと微笑むと彼女の手を取る。そして、だだの紙に見えるソレを彼女の手に握らせた。
彼の繊細で大きな手は、彼女の小さな手を包み込むようにして添えられている。
「そ…な、だっ…!い、要りませ…!」
口では必死に拒む彼女だが、彼女は草薙に渡された紙をしっかりと握っており、目は紙に書かれた内容を穴が空きそうなほど凝視している。
黒目がちの大きな瞳が、隠しきれない喜びをその目に映す。
そんな表情が、扉の外にいる人物の機嫌を悪くしているなど、彼女は夢にも思ってはいないだろう。否、分かる筈がない。
そんな彼女の表情を見て、極近い距離で草薙がクスリと笑う。
「礼はさ。また飯に付き合ってくれればいいから。」
ヘラリと微笑んでそう宣う悪友に、湯川の中で何かが切れた。