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□熱ノ浮力(ネツノフリョク)
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湯川は、学者とは思えないほど逞しい身体付きをしている。
薫は、それにドキドキしている自分が恥ずかしくなり、さらに顔を赤らめた。
"欲求不満みたいじゃない…。"
心の中で、自分を叱咤する。
――しかし…
眠りについた彼の端正な顔立ちにを見ると、つい目が奪われてしまうのだった…。
薫はベッドの端に左膝を置くと、輪郭を確かめるように頬や首筋に触れる…。
首筋に手をやると、熱い体温や脈拍に、溝尾の辺りがギュッとなる――。
「気持ちがいい…」
微かに、湯川が呟いた。
薫は、驚いて手を引こうとしたが、湯川の手がそれを阻んだ。
首筋に当てられている薫の右手に、湯川は自らの左手を添えた。
薫の胸が、軋むような音をたてる。
「氷枕か何か…作って来ますけど…」
薫は、湯川から目を背けて言った。彼女の体温は、このままだと数秒と経たない内に彼と同等にまで上がってしまいそうだった。
湯川は、よほど心地いいのか薫の手を放さない…。