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□君が知らない僕の感情
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"――ここまでくると、いっそ情けないな…"
そうこうしている内、息を切らして走る僕の視線の先に見慣れた看板が見えてきた。
走ってきた勢いのまま引き戸に手をかけると、祈る様な気持ちで暖簾をくぐった。
店内に足を踏み入れると、大将と女将さんから「いらっしゃい」と声をかけられた。
「あら、先生。お連れの方ずいぶん待ってらしたんですよ?」
笑顔の女将さんが手で示した方を見やると、カウンターに見慣れた姿があった。 息を切らす僕を見て、女将さんがすかさず水を注いで渡してくれる。
「8時前くらいまでは起きてらしたんだけれど…」
近づいてみると、自分の腕を枕にして眠っている薫君の顔が確認できた。
「よく、眠っていますね。」
気持ち良さそうに眠る姿に、起こす気も無くなる。
「お酒は1合ほどしかお出ししていないのだけれど…。余程お疲れだったのねぇ。」
可愛い、と女将さんが笑う。
「すみません、今日の所はこのまま連れて帰ります。」
御代はいくらかと女将さんに尋ねる。すると、カウンター内で作業をしていた大将が口を開いた。