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□無知なる猫は嘘に溺れる
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「拗ねてるんだな」

そうよ。

「そうツンとするな。」

ご主人がアタシの頬に触れる。

首筋を撫でられると、擽ったくて声が漏れてしまった。

長くて、少しゴツゴツした指は好き。
だけど約束の時間を守ら無かったのは、別の話。
アタシはアタシをギュッとするご主人の背中に、爪を立てて引っ掻いた。

「った…」

多分、さっきまでのアタシのお腹と同じくらいの痛みだと思う。
これで許してあげる。
「すました顔で…とんでもない事をする奴だ。」

ご主人は私の顎をグイと引いた。
目の前に、ご主人の顔。

「明日の餌は少し上等にしてやるから。機嫌を直せ。」

そう言うとご主人は、もう一度私を抱きしめた。

「薫、そのままじっとしてなさい。」

"薫"は、ご主人がくれたアタシの名前。

「―毎夜…飼い猫相手に情けない事だ。」

ご主人は少し身体を放すと、唇をアタシのほっぺたにくっ付けた。アタシは、目を閉じてそれを受け止める。

アタシとご主人の身体の大きさが変わってきた頃からの、"秘密"の行為。


唇を合わせて、お布団を被って、どちらかが眠るまでじゃれあう。

擽ったくて、気持ちいいから大好きだけど。

「…仕様のない奴だと思わないか。君は猫なのに。」

ご主人は決まってこう言うの。



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