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□心にも灯を
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薫は眉間に皴を寄せ、湯川を睨んだ。しかし、それも何処吹く風…。湯川は薫を無視し、駐車場に向けて歩き出した。
暫しの間、その背中を睨みつける薫。だが、突進何かを思いついたように顔を輝かせた薫は、湯川めがけて突進した。
飛び付くと同時に、冷えた手を湯川の首筋に押し当てる。
「うっりゃー!!」
「つ…!何なんだ君の手は!」
慌てて薫を振り落とした湯川は、自身の首筋に手を当てて目を剥いた。一瞬だけ押し当てられた手は、氷の様に冷たかった。
「どうですか!これが冷え性の手です!」
「…これで…ちゃんと血が通っているのか…。」
湯川は薫の手を取ると、マジマジと観察した。血の気の無い指は酷く冷たく、彼女の血管は全くもって役目を果たしていないように思われた。
一方、薫はといえば…。触れた湯川の手の暖かさに中々ご満悦の様子で、笑みを溢していた。
「…何を笑ってるんだ。」
「―いえ別に。」
「帰るぞ。」
パッと、手が離れた。同時に「ああ」と酷く残念な声がして、湯川は動き出した足を再び止めた。
振り向けば、目を泳がせた薫が慌てて顔を伏せた所だった。
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