□温かさを
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変な間の後、盛大な溜め息と共に眼鏡を指で押し上げた鏡夜先輩が口を開いた。

「何のために姫達を早くお返ししたと思っているんだ」
「そうだぞ光!俺達も早く帰らないと」

そう。
天候悪化による生徒のお迎え交通網の混乱を危惧した我が学園は、早々に活動を休止。速やかに下校するように、との連絡がなされた。
それはホスト部も例外ではなく、急遽姫達を帰すことになり、そのお詫びにと部員が校門までお見送りする特別サービスを提供しているため、今ここに馨とハルヒは居ない。

だからこそ、
今の内に見つけておきたいのに…っ!!!

「嫌だ!探しに行く!!」
「なっ、光!我が儘を言うな!!」
「無いと困るの!」
「探すんなら明日でもいいだろう!?」
「それじゃ遅い!」
「とにかく、今からは無理だ!」
「ほっといてよ!探してって言ってるんじゃないんだから!」
「あ、おい待て、光!!」

殿の制止を振り切って勢い良くドアを開ける。


しかし予想外にも、そこには驚いた顔のハルヒと、馨の姿があった。

「…あ…」
「びっくりした…。何?光どうしたの?」

「あー…ハルヒ、馨お帰り。どこかで光の手袋見なかったか?」
「え?」
「ちょっ…!!!」

焦りの表情で反射的に振り返れば、殿は『何だ!?言っちゃマズかったのか!?』と縮こまっていた。

全くもう。あのバカ殿は…。

僕は怒る気も失い、暗い顔で馨の方へ向き直った。

「…光?」
「………馨、ごめん。絶対見つけるから!」
「今から探すの!?いいよそんなの!」
「でもあれすっごい大事でっ……無いと困る…」
「んー、そんなに着けたいなら…」

馨は片方だけ手袋を外すと、それを僕の右手に着けた。

「はい!これでいい?」

きょとんとして自分の手を見つめる僕の顔を、微笑んだ馨が覗き込む。


あれ…。そういう意味じゃなかったんだけど、な……。


「だって、これだと馨も寒いよ?」

とりあえず思った事を言ってみた。

すると馨は、そんな僕の顔を見て更に笑みを溢すと、手袋を着けていない手で僕の冷たい手を掴んだ。

「これで寒くない、でしょ?」

結ばれた馨の右手と僕の左手。そこから伝わる温かさは確かに馨のもので、
僕は手袋の事なんてどうでも良くなってしまった。


「っ、馨ー!!」

嬉しさといとしさに、思わず馨を抱き締める。
『いいよそんなの』と言ってくれた事が嬉しかったのか、手を繋いでくれた事が嬉しかったのか、僕もよくわからない。
でも、手袋を無くしたことで焦っていた自分が何だか馬鹿らしく思えた。


抱き締めた馨からは、更なる温かさと共に、匂いと微笑みが感じられた。








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「あいつら俺達の事忘れてるだろう」
「でも、解決したみたいで良かったねぇ」
「…そうだな」
「あの、自分は何が何だか…」
「おお!そうだハルヒ!お父さんは娘とお揃いの手袋が欲しくなったぞ!!」
「え、自分は要らないです。買い換える気もないですし」




「…さ、帰るか。」



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